運営:鈴木健司社労士・精神保健福祉士事務所
大阪府羽曳野市羽曳が丘3−4−4
受付時間:9:00~17:00(年末年始・土・日・祝日を除く)
ゴールデンウィークは、5月1日~6日、休業させて頂きます。
電話相談受け付け中
お気軽にお問合せください
お気軽にお電話ください
072-959-2168
【理由要旨】
1 本件は、1型糖尿病に罹患し、障害等級2級の障害基礎年金を受けていた控訴人らが、平成28年に支給停止処分・支給停止を解除しない処分を受け、行政手続法の要件を欠くことを理由にこれらの処分を取り消す判決が確定した後、更に令和元年に同様の処分を受けたことから、その取消を求めた事案である。
2 原審は、控訴人らが主張した様々な違法の主張を採用せず、支給停止事由等があると判断して、控訴人らの請求を棄却した。
3 当裁判所は、控訴人らには支給停止事由等があるとはいえず、控訴人らに対する処分はいずれも違法であって、取り消すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。
⑴ 1型糖尿病は、膵β細胞が何らかの理由で破壊され、インスリン分泌が枯渇して発症する糖尿病であり、いったん破壊された膵β細胞は再生せず、インスリンの生成がなくなってしまうため、1型糖尿病患者は、インスリン療法が生涯必須で、現時点で根治は難しいとされている。1型糖尿病患者は、日々、食事や運動による血糖変動を予測し、インスリンを注入することになるが、食事の量・内容や運動の強度、体調等によって血糖変動のパターンや度合いは区々であり、それに合わせてインスリンを注入するタイミングや量を調整する必要があり、インスリン療法によって良好な血糖コントロールを維持することが最大の課題となる。インスリン療法下にある1型糖尿病患者は、食後に血糖が極めて高く上昇し、夜間に低血糖が起こりやすいことから、毎日定期的に血糖自己測定を行うことによって患者ごとの血糖日内変動の特徴を把握し、インスリン投与量を適宜調整することで血糖をコントロールするとともに未然に低血糖の発生を予防する必要がある。インスリン療法を行うと、体外から注入するインスリンの過剰によって容易に低血糖状態になり得る。血糖値が60mg/dL程度のレベルに低下すると、動悸や発汗、振戦、蒼白、頻脈、空腹感などの自律神経症状が出現し、これにより低血糖を自覚できるので、自ら糖分を摂取することによって低血糖から回復する契機を得られることになる。しかし、血糖値が54mg/dL未満の重症低血糖に至ると、頭痛、かすみ目、複視、倦怠感、眠気、認知能力の低下等の中枢神経症状が出現し、その症状によっては、自力で糖分補給等を行って低血糖から回復することが困難な状態となる。糖尿病の罹患期間が長期化すると、患者が低血糖症状を自覚できないまま、さらに血糖が低下する事態を招くことがあり、これを無自覚性低血糖という。重症低血糖は臨床的重要性が高く、さらに臨床上回避すべき最も危険度の高い低血糖は、回復に第三者の助けを必要とする重症低血糖であるとされている。重症低血糖の状態が続くと、血糖値が30mg/dL前後で昏睡に至り、心血管疾患が誘発され、また、認知機能の低下や神経症状が後遺する場合も経験される。
⑵ 障害等級の認定は、障害認定基準に沿って行うのが相当であり、糖尿病を含む代謝障害についての障害認定においては、同基準の「代謝疾患による障害」の「認定基準」「認定要領」が、いずれも基準として合理性を有するといえるから、これらを参照すべきである。「認定要領」は、「糖尿病による障害の程度は、合併症の有無及びその程度、代謝のコントロール状態、治療及び症状の経過、具体的な日常生活状況等を十分考慮し、総合的に認定する。」としつつ、「糖尿病については、必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なもので、次のいずれかに該当するものを3級と認定する。」と定め、「次のいずれか」として空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満、意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が平均して月1回以上、インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上という指標と、一般状態区分表該当性を挙げている。指標は、代謝の機能障害の程度の判断のための具体的な基準であり、一般状態区分表該当性は、主に具体的な日常生活状況等という病状の程度の判断のための基準として理解できる。一般状態区分表は、他の疾患と共通の内容となっているから、1型糖尿病の特性を勘案して柔軟に解釈すべきである。なお、上記指標の重症低血糖に関する「意識障害」は、低血糖が原因で意識が清明でなくなった状態を指し、必ずしも意識消失や昏酔に限定されない。
⑶ 「認定要領」は、2級該当性については具体的な基準を示さず、「症状、検査成績及び具体的な日常生活等によっては、さらに上位等級に認定する。」とのみ定める。そうすると、上位等級該当性については、症状、検査成績という機能障害の程度、具体的な日常生活状況という病状の程度を総合的に考慮して、「日常生活が著しい制限を受ける」(2級15号)か否かを判断すべきことになる。
⑷ 一般状態区分表は、平常時における日常生活の制限度合いを確認するために用いるものである。しかし、前記のような1型糖尿病の病態を踏まえれば、高血糖によるリスクはもとより、重症低血糖もその場の状況によっては生命にかかわる危険のある症状であるため、1型糖尿病患者にとって血糖コントロールは極めて重要であり、血糖値を継続的に計測するなどの対応が必要となる。そして、特に1日のうちにも血糖値が大きく変動し、高血糖・低血糖を繰り返すような場合には、ほとんど常時上記の対応を要し、さらに第三者の介助が必要となることもあり得るから、そのこと自体が日常生活を制限するものとなる。したがって、平常時の状態としては、自己対処等が適時行われたことによる血糖値の結果のみならず、そのような自己対処等の必要も含めて、日常生活の制限度合いを評価すべきである。
⑸ そうすると、1型糖尿病患者について2級該当性を判断するにあたっては、1型糖尿病は膵β細胞が何らかの理由により破壊されインスリン分泌が枯渇して発症する糖尿病であり、いったん破壊された膵β細胞は再生せず、内因性インスリン分泌が完全に欠乏していること、1型糖尿病患者は生涯必須とされるインスリン療法で血糖コントロールに努めてもなお、1日のうちに血糖値が大きく変動し、高血糖・低血糖を繰り返し、安定値の時間が少ない場合には、ほとんど常時、血糖値を計測し、血糖値に応じた補食やインスリン投与などの自己対処を要する上、程度によっては第三者の介助が必要となることもあり得るといった血糖コントロールの負担を余儀なくされていること、昏睡などにまで至らなくても、高血糖・低血糖の症状が出ると、回復のために一定時間を要するなど日常生活が大きく損なわれること、無自覚に高血糖・低血糖となることも少なくないため、常に不安を抱え、食事、行動、仕事などに関して慎重な配慮を要する生活を強いられていることなど、1型糖尿病の特性、血糖コントロールの状態、症状、労働の状況を含む具体的な日常生活状況等を十分考慮し、総合的な認定の下、日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度か否かを判断すべきである。
⑹ 上記を前提に控訴人らについて2級該当性を検討すると、いずれの控訴人についても、「認定要領」に基づく3級該当性は認められ、さらに血糖コントロールの状態・症状、日常生活の状況等を詳細にみると、控訴人ごとに違いはあるが、いずれも上記のような1型糖尿病患者が置かれた状況にあって「日常生活が著しい制限を受ける」程度と認められ、障害の程度は2級に当たるといえる。
お気軽にお問合せください